闘病記18 番外編5 出産レポート
出産の2~3日後に書いた日記の内容を、ほぼそのまま転記しました。闘病とは関係ない、普通の出産体験談です。
◆ 3:00
お腹の重苦しさで目を覚ます。いつものことと気にせずトイレに行き、少量の出血に気付く。おしるし(お産が近いサインの一つの、少量出血)だ、と感動する。今週中に出産できるかもと、興奮して目が冴えてしまった。
生理痛そっくりの下腹部の重苦しさが、やがて鈍痛に変わる。2~5分間隔で痛みの波が来る。強い痛みではなく、10分間隔からのスタートでもなかったので、陣痛とは思わず、不安になる。
◆ 5:00
熟睡中の夫をつついて起こす。お腹が痛いと訴えてみたが、当然夫にも何が起きているかはわからない。不安を解消するために、病院の産科病棟に電話する。前駆陣痛かもしれないという回答に、少し安心する。
痛みが段々強くなる。一人で耐えるのが心細くて、早朝なのに悪いなと思いつつ、夫の手をぎゅっとつかんでいた。
◆ 6:00
外来が開くのを待って受診という、悠長な気分ではいられなくなり、産科に再度電話。病棟で診察してもらえることになった。一応、入院グッズを持参。痛みが来ると、歩くのも困難。
◆ 6:50
助産師による内診。子宮口3cm。出産はまだだが、赤ちゃんは下りて来ている、ということで、そのまま入院。
30分間モニターで監視。3~4分間隔の陣痛が来ていることが確認され、陣痛室へ移動。陣痛室は家族も立ち入り禁止。出産はまだだと言われた夫は、ここで帰宅。
◆ 7:30
陣痛室の先客は3人。皆、結構平気で動き回っている。朝食が出されたが、頻繁に来る痛みで、食べるどころではなかった。
◆ 8:00
顔をしかめる程度で耐えられた痛みが、ちょっともうどうしよう、というレベルになる。「ヒッ、ヒッ、フー」という呼吸は、初めのうちは確かに効いたが、数回で役に立たなくなる。寝ていることもできなくなり、起き上がってテーブルをつかんで耐える。
◆ 8:40
子宮口7cm。腰に激痛。「すごい」としか表現しようのない、初めて経験する痛み方。お馬さんのような物にまたがって、汗だくで持ち手の部分をつかむ。腰を押してもらうと痛みが軽減されるのと、何よりも心細さから、痛いと騒いで、担当の助産師に助けを求める。荒く息をしていたら、手足がしびれてきてしまい、慌てて息を吐くことに専念する。
どんなに苦しい、痛いと訴えても、誰もこの痛みを取り除いてはくれないということ。赤ちゃんが出るまで、私自身がとことん頑張るしかないのだということを、ここに至ってようやく悟る。頭ではわかっていたつもりだったが、実感としてわかっていなかったらしい。私が自覚し、覚悟を決めたのは、この時点。妊娠を後悔したり弱音を吐いたりしなかったのは、私にしては上出来。
◆ 9:00
分娩室へ移動。子宮口は10cm。ほぼ全開。助産師の指導で、いきみ方の練習をするが、うまくいかない。
赤ちゃんが完全に下りてくるまで、1時間、いきみを逃す。つまり、赤ちゃんを出さないようにする。これがすさまじくきつい。陣痛の波が来るごとに、痛いと叫ぶ。1~2分続く痛みの中、最後は絶叫に近い。助産師が「そうね。痛いね」と同意してくれると安心する。声を出すという私の行為は、多分甘えなのだろう。助産師の姿が視界から消えるとパニック状態。お尻を強く押さえてもらわないと、どうにかなりそう。2人目はないな、と真剣に思った。息を吐くようにという指示に、必死で従う。
◆ 10:20
分娩室に内線。私の母が来たという連絡。助産師が、あと1時間くらいで産まれる、と返事をしていた。
◆ 10:40
出産準備に入る。医師が呼び出された。ようやく、いきみの許可が出る。2~3回まごついたが、排便と同じ要領でいいと聞いた後は、うまくできるようになった。いきむと陣痛は苦しくない。我慢するから苦しかったのだということを、初めて知った。
何度かいきんだ後、体を横向きにさせられ、いきみ中断命令。ひーもうだめです、と訴えたものの、お腹の赤ちゃんによくない、という助産師の一言で、だまる。再び地獄のいきみ逃し。医師と助産師が、小声で何やらぼそぼそ話している。「赤ちゃんの向きが…」という言葉だけ聞こえた。
医師から、「赤ちゃんが苦しんでいるので、お手伝いします」と、鉗子(金属製のヘラ。これで胎児の頭をはさんで引き出す)を使うと告げられる。なんだかよくわからなかったが、了承した。すぐに出してくれるのかと思いきや、うまくいかない。今さら帝王切開かと不安になる。次に取られた処置は、お腹を押すこと。どうぞ何でもしてくださいという心境。予想以上の力で押されて、獣のような咆哮が口から飛び出し、自分でびっくりした。
陣痛の痛みと痛みの合い間は、案外けろっとしている。このまま寝ちゃいそう…と思っていると、またじわじわやって来る。「あー。来ますー」と自分で陣痛予告。それに応じて、助産師が呼吸指示を出してくれる。
◆ 11:12
いきむこと、全部で十数回。ついに赤ちゃんの頭が出た………らしい。楽になるでもなく、自分では全然わからなかった。別の助産師に、もう いきんだらだめだと言われ、「へっ?」となる。まだこんなに苦しいのに? 半信半疑ながら、本の知識を思い出して、短促呼吸(「ハッハッハッ」という短めの呼吸)に切り替える。わけがわからずにいるうちに、赤ちゃんは取り出された。
「おめでとうございます。お嬢ちゃんですよ」という医師の言葉と、ふにゃあふにゃあという弱々しい産声。どちらを先に聞いたのだろう。
少したってから、私のお腹の上に、赤ちゃんを乗せて見せてくれた。生まれたてほやほやの赤ちゃんは、なんとなく生々しい印象だった。この子が、ついさっきまで私のお腹の中に入っていた、私の分身だということが、ぴんと来ない。ちょっとほっぺをつついて満足して、連れて行ってもらった。
お腹がまた張って来て、助産師が胎盤を引っ張り出す。何もしなくていいと言われた私は、人任せは楽だわ~とリラックス。後産終了。
会陰縫合。切開されたことは、陣痛の痛みに埋もれて気付きもしなかったが、縫合処置は、痛くて長かった。出産が終わったのに、なんでこんなに痛い思いをしなきゃいけないんだ、と内心不満たらたら。
◆ 12:30
処置が全て終わった後、清拭、着替えを済ませて、車椅子で廊下に出る。夫が戸惑ったような笑顔で、赤ちゃんを膝に乗せていた。私の母が、ガラス戸越しにそれを見ている。2人の顔を見るとほっとして、ああ、終わったんだなと感じた。
あらためて見た赤ちゃんは、金属ヘラで引っ張られた影響で、頭が長く伸びてしまっていた。それが、夫にとっての我が子の第一印象となる。ちょっと、カナしいかも…。顔はふっくらしていて、猿っぽくは見えない。左目をうっすら開けて、じっとしている。
五体満足で産まれてきてくれてよかった。
ようやく、現実的なことを考えられるようになった。
『いつもと違う』痛みを感じてから6時間半。2000年5月23日火曜日 午前11時12分。赤ちゃん誕生。性別は女の子。体重2992グラム。身長48.6cm。身体的な異常なし。母体の状態も良好………であると、この時はそう思っていた。
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