母と娘の連弾発表会
センスはないけれど練習のオニなママと、練習は嫌いだけれどセンスはバツグンなコドモの、ピアノの競演。
無茶で無謀なこの試みの結末は、果たして…?!
発表会の曲は、まりにゃんと合意の上、7月下旬に決定しました。
それから本番まで、3ヶ月。
まりにゃんが、一緒に練習してくれることは、稀でした。
でも、自分のパートはすぐに覚え、ママのレッスン日に学校が早く終わると、進んで同行してくれるなど、まりにゃんなりに、協力態勢。
発表会の3日前には、本気モードで練習に付き合ってくれ、そのおかげで、最終的には完成した形で、本番に臨むことができました。
そして、10月某日。
大人の発表会、当日です。
会場は県西の某ホテル。
私が出場するのは、サロン部門の第3部で、22人中13番目です。
3ヶ月前のミニ演奏会では、先に弾かれた方々の名演奏ぶりに、臆して、緊張を募らせてしまったものでしたが、今日の参加者さん達は、雰囲気に呑まれてしまったのか、皆様、なかなかパーフェクトとは、いかない様子。
これなら私も、極端に見劣りすることはないかもぉ~。
人様の失敗に心安らぐとは、我ながらみみっちい根性ですが、肩の力が抜けたのは確かです。
ふと思ったのですが、7月の演奏会で、私がパニックに見舞われたのは、「私は一番ヘタですから」 とかいう自己紹介をしておきながら、その直後に、それは見事な演奏を披露してみせる、ウラギリモノ~な面々に、原因があるとみましたよ。
アナタのそれが、一番ヘタだと仰られては、明らかに実力がそれ以下な私は、立場がないじゃないですか。
ピアノ歴ダントツ最下位の引け目もあって、私、かなり萎縮しちゃったんですからねっ。
謙虚は美徳というけれど、度が過ぎると、悪徳だと思うわよ。
…なんて、脱線してグチってないで、さっさと話を進めましょうね。
先は、ものっすごーく長いんだからさー。
さて、『サロン』 部門とは、大勢の前で弾くのがイヤな、心臓弱者のための、小規模スタイルコース。小さな部屋で、アットホームな雰囲気の中で、演奏できます。
…と聞かされていました。
ところが、行ってみると、そこは私の想像の2倍広く、室内には、椅子がずらり。
第3部の開演時、それらは満席で、立ち見を含めた聴衆は、30人…いや、40人?
ま、まじですか。
私は、身内プラス数名を、想定していたのですが……。
幸い、サロンは出入り自由の気安さがあり、目的を達成した人々の多くは、途中で退室。プログラムが進むにつれて、人数は減っていきました。
出番待ちの間、私は気が重かったりはしたものの、どきどきやぶるぶるは、特になし。
気負いがなかったからか、あるいは、気合いが入っていなかったのか?
隣に座るまりにゃんの手を、撫で撫でしていたら、さらに気が紛れて、いい感じ~。
その まりにゃんは、姿勢よく座って、静かに順番を待っています。
お行儀のいい まりにゃんは、よそいき まりにゃん。
キミはもしや、緊張しているのかい?
ママという、不確定要素を抱えての、発表会に。
そうこうするうちに、11番目の方の演奏が終了。
12番は欠席と紹介されて、いきなり、13番の私達の出番が回って来ました。
私にとっては、ラッキーなハプニング。
いらぬプレッシャーが、うっかり目覚める前に、とっとと済ませてしまうに限ります。
まりにゃんと一緒に、前に出て、客席に向かって、ぺこり。
驚いたことに、聴衆は全員、透明人間です。
人を人として認識してはいけないと、私の頭が、勝手に自衛対策を取ったのでしょうねぇ。
その時は、「あらぁ…」 と思っただけでしたが、今思うと、シュールな体験でした…。
司会者がコメントを読んでいる間に、楽譜を広げて、まりにゃんの椅子の位置合わせ。
「どうぞ」 の声を合図に、連弾アレンジ版 『別れの曲』、スタートです。
弾き始めは意外と冷静でした。
と自分では思っていたのですが、後でビデオを確認してみると、やけに速くないかい…?
表現面の要というべき、『だんだんゆっくり』 記号も、完全に無視してます。
あからさまな違和感はないけれど、ゆったり聴かせる曲でこれは、不本意だなぁ…。
ビデオを見て、いやぁ全然気付かなかったよ~と、笑って誤魔化す私に、まりにゃんは口を尖らせて、「あたしはわかってたもん」
「あの時、『ママ、もっとゆっくり…! ゆっくりだよっ』 って、ずーっと心の中で言ってたんだよ。なのにママってば、全然気付いてくれないんだもん」
あ…いや…ごめん、でも、ママ、ちょー能力者じゃないからさ……。
「途中からでも、ゆっくりにしてくれるって信じてたのに。ウラギラレタ気分だよ」
そ…そこまで言うのか…!
娘との意思の疎通に、失敗した母。
母子連弾の試みは、失敗だったのか?
…ということはなく、むしろ、これぞまさしく 『息がぴったり合った演奏』 でしたよぉ。
びっくりするほど、ぴったりきっちり、音が揃っています。
ちなみに、私は自分のことで精一杯で、『合わせる』 なんて概念は、皆無でした。
これは、最初から最後まで、全力でママをフォローしてくれた9歳児、まりにゃん一人のお手柄です。
さて、アップテンポで、しっとり感にはやや欠ける 『別れの曲』 でしたが、ミスタッチは、前半では、聞き流せる程度の乱れが2回だけ。
全体の流れは順調で、中盤の山場も、ノーミスで越えました。
これはこのまま行けるかも?
と、私が思い、オットでさえそう感じたほど、安定感を保って、曲は終盤へ。
しかし…。
所詮私は、平穏無事とは縁遠い女。
残りあと2行、というところで、やらかしてしまいました。
盛り上げていくクレッシェンド部分で、指の位置取りを間違え、修正できないまま、見せ場のフォルテの音を外しました。
響いた音は、いかにも自信なさげな、哀れっぽい不協和音。
その滑稽さに、張り詰めていた気持ちが緩んだ私は、笑いがこみ上げ、演奏を中断してしまいました。
まりにゃんは、「間違えても、出来るだけ止まらずに弾き続けるように」 という先生の指示に従って、演奏を続けたのですが、ママの顔に書かれた 『仕切り直し』 の文字が見えたのか、少し遅れて演奏を止めました。
演奏をどこから再開するか、私が考えている間に生じた、7秒の 『間』。
その場にいた誰にとっても、長く感じられたことでしょう。
気の毒だったのは、まりにゃんちゃん。
ここはママの仕切りどころで、定評のある まりにゃんの本番度胸も、ここでは宝の持ちぐされ。
ママがどうするか。この後どうなるのか。
予測ができず、不安を募らせた まりにゃんは、
「コドウがとても速くなって、もう泣きそうだった」
そしてこの時、まりにゃんの心臓は、「耳の中にあった」 そうです。
な…なんという迫力の大音量だったのでしょう…! キミの鼓動はっ。
おそろしい思いをさせちゃって、ごめんよぉ。まりにゃん。
ママはこの時、ここから立て直す自信は、一応、ちゃんとあったのよ。
でも、まりにゃんは、気が弱いママの頭の中が、真っ白化していると、思っちゃったのね?
まりにゃんの自尊心をくすぐるために、「まりにゃんだけが頼りなの!」 と繰り返し言い聞かせ、『頼りないママと、しっかり者のまりにゃん』 の構図を、強調し過ぎたのが、失敗でしたかねぇ。
多少のトラブルは大丈夫! な 『しっかりママ』 像も、まりにゃんの心に植えつけておくべきでした。
え? 私のキャラでは、それは無理?
まりにゃんの動揺に全く気付かないまま、私は中断7秒後に、心の準備を完了。
楽譜を指し示し、「ここからね」 と、まりにゃんに声をかけました。
そして、まりにゃんの反応を待たずに、いきなり一人で演奏再開。
おいおいおい…。
そこは、「せーの」 で二人一緒に入るところでしょうが。
なんだかんだ言って、焦ってたな。私。
独走・暴走するママに、まりにゃんは、内心はともかく、表面上は慌てず騒がず、2小節目から、すっと合流してくれました。
どこからでも入れるそのワザが、私にもあったなら、演奏を中断せずに済んだでしょうに。
その後は、相変わらずのスピードはともかく、ミスタッチは、なし。
滅多に揃わない、鬼門の最後の音は、まりにゃんの 「せーの」 という囁きに合わせて、鍵盤同時押し、大成功。
その音をフェルマータで5拍ためた後、鍵盤から両手を上げるタイミングまで、ぴったり合わせて、無事に(なのか?)演奏を終えました。
再び客席に向かってお辞儀をして、そのまま会場から脱出です。
人の演奏には興味ありません、みたいな態度は、よろしくないとは思いますが、なんというか、澄ました顔で観客していられるような、精神状態ではなかったんですよ。もう。
ちなみに、この時には、透明人間さん達は皆、人間の輪郭を取り戻していました。
20人くらい、聴いてくださっていたのかな。
先生は、満面の笑顔で迎えてくださいました。
私同様、あるいはそれ以上に、安堵し、解放感を味わっている…ように見えます。
決め所で音を外すのが得意な生徒の演奏を、固唾を呑んで、見守ってくださっていたのでしょうね。予想通り、最後にハラハラさせてしまって、申し訳なかったですぅ~。
「あれくらい全然大丈夫です。よかったですよ~」 と言ってくださいました。
オットからは、「あの中では、上手い方だったよ」 という感想を頂戴しました。
釣った魚にリップサービスをしないオットの、珍しい褒め言葉。
ちったぁ見直したかい? ぽよぽよな私でも、やる時はやるのさっ。
私自身の感想は、ノーミス演奏など、始めから自分に期待していなかったので、あの6分の5地点までの出来栄えで、十分。上出来。満足です。
まりにゃんにとっては、涙の心臓ばくばく体験により、あまりいい思い出としては、残らなかったようです。
自分がしっかりして、ママをフォローしなきゃ、という意識が、多分強過ぎたのでしょう。
私が、やり方を間違えちゃったのね。反省反省。
頼りないママを心配するあまり、9年5ヶ月の人生の中で、おそらく最大の緊張を、体感させられちゃった、まりにゃんちゃん。
でも、これはこれで貴重な体験だったなと、振り返れる日が、いつかきっと来るさ!
ちなみに、練習のパーフェクト率が、決して高くはなかった まりにゃんですが、本番はノーミスで決めるあたりは、さすがまりにゃん。やってくれます。
とにかく、まりにゃん。ママのお守り、お疲れさま。
演奏をうまくまとめてくれて、本当にどうもありがとね~。
ところで、この演奏会の参加者には、もれなく別室でケーキセットが振舞われます。
但し、1名分。
ホテル側の、ズルい販売促進戦術ですよね。これ。
ケーキセットなんて、普通、一人では食べないっしょ。
権利を捨てるのもなんだし、我が家も、オットとまりにゃんの分を、追加注文しましたが、普段だったら、あり得ませんよ。単価1,500円のケーキセットなんて。
ただ、上品な味わいで、いい記念にはなりました。
この発表会の参加人数は、231人。
そのうちサロン部門は、76人。
思っていた以上に、大規模なイベントだったのね。
その割に、我が教室からの出場者は、少数派。
10何人かいるうちの、4人だけだったんですよ。
大人の発表会にも、コドモの発表会並の強制力があると、勘違いした私。
やられました…。
本当に任意だと知っていたら、自己満足で大満足の私は、こんな場所にのこのこ出て行ったりしなかったのにー。
ただ、終わった今は、その消極的心理も、いい経験をしたかな、という気持ちに変化しています。
人生初の、発表会出場体験。
この性格で、この年で、頑張ったよ。私。
ね?
さて。見直せば見直すほど、長くなって行く、発表会レポート。
この辺で、いい加減に本当に打ち止めにします。
原稿用紙10枚超の長文に、最後までおつきあいくださいました皆様。
もしもいらっしゃいましたなら、お疲れ様でございました & ありがとうございました~。
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